{霧の中の恋人}


駅前に出ても、のどかな風景は変わらなかった。


ポツリ、ポツリと商店があるだけで、他は何もなさそうだ。


ちょっとした食料品や、日用品まで置いてある、でもコンビニとは言い難い商店。

店先に、手作りの漬物が並べてある八百屋さん。


”おみやげ”と書かれたボロボロのノボリがパタパタと揺れるお土産屋さんには、薄暗い店内にペナントや提灯が飾られてある。


小さな交番の前に立つおまわりさんは、眠そうに目を擦っている。



物珍しそうに私たちをチラチラ見ながら、カートを引いたお婆ちゃんがゆっくりと通り過ぎて行った。




………。


ここまで来てしまったら、もう行くしかないよね!


何だかもう、やけくその気分になった。



私はキョロキョロと辺りを見渡し、お目当ての物を発見した。


「久木さん、ここからはバスに乗ります!」


バス停を指さして言った。



隣から『また移動するのか』というオーラが漂ってきたけど、久木さんは何も言わなかった。


もしかしたら久木さんも、ここまで来たらどこに行っても変わらない…と、諦めがついたのかもしれない。



しばらく待ってバスが到着し、それに乗り込んだ。