{霧の中の恋人}


ようやく目的地の駅に着いた。


「ここです久木さん!
ここで降ります」


アナウンスに急かされるように、電車の外に飛び出た。

そして、ドアが閉まったあと、ゆっくりと電車が走り出した。



電車が過ぎ去ったあと、目の前にのどかな風景が広がった。


田んぼ、山、海、木、木、木………


どこからともなく聞こえる鳥のさえずり。

電車の線路を、のんびりと猫が横断し、アクビをしている。



のどか過ぎるでしょ!



思わず突っ込みを入れたくなる風景に、私と久木さんがポツンと取り残された。


この駅のホームに降り立ったのは、私と久木さんしかいなかった。



「…もう一度聞く…。
君は一体どこに行くつもりだ」



この風景に、久木さんも茫然とした様子だ。


私はただ笑って誤魔化すしかなかった。