{霧の中の恋人}


次の日曜日

嫌がる久木さんを無理やり引っ張り出すことに成功した。



そして今現在、電車に揺られながら私はずっと顔を俯かせていた。


何故なら、4人掛けのボックスシートの目の前に座る久木さんと目を合わさない為だ。


久木さんは足を組んで、こめかみの部分に拳をつけて、終始ずっと私を睨みつけている。


王様に、処刑を言い渡される前の囚人の気分だ。



目を合わせたら最後

きっと、その鋭い視線を見た瞬間、私は石に変わってしまうに違いない。



「そろそろ何処に行くか吐いたらどうだ」


まるで、犯罪者に罪を認めさせる刑事のような口ぶりだ。


「えっと…、着いてからのお楽しみですvv」


可愛らしく小首を傾げてみたが、効果はまったくなかったらしい。


久木さんは、こめかみに当てていた手を、ドアのさんの部分にやり、指でコツコツと叩き始めた。


「ふざけるな。
こっちは朝っぱらから叩き起こされ、何処へ行くのかも聞かされずに連れまわされ、これを迷惑と呼ばず、なんと言う?」


「…仰る通りで…」

私は目の前の威圧感に、身を縮こまらせる。


「電車に乗り、早1時間が経った。
窓の景色は、田んぼや山ばかり。
こんな田舎に何があるというんだ」



確かに…

見渡す限り、田園や山の風景が広がり、時折民家があるぐらいで、周りは何もなさそうだった。