『・・・・・・』

「・・・・・・」



外では秋の虫が早くも鳴き出している


グラウンドから部活中の野球部の声が聞こえてくる


上からは吹奏楽のチューニングの音が聞こえてくる



…そのくらい

この空間は静かだった





『…お前って』



彼方が口を開いた



『時々分かんねえよ、何考えてんのか』


そう言って自分の頭の後ろをわしゃわしゃとかきむしった


「そ!…そんな事言われたって
今言いたくなったんだから…」


ごにょごにょと小さな声で反発する

自分で言っておきながら
言ってから恥ずかしくなった




『…なんで「恋」な訳?
なんか由香里って「愛」って言葉の方が好きなイメージあったし
女ってそういうの好きだろ?』


「…恋ってさ、愛より“心”が大きいじゃん
それに「恋する人」って書いて「恋人」でしょ?
千秋さんにその話聞いて恋って字が好きになったんだよね」


私はちょっと自慢げに語った
千秋さんの受け売りだけど…



《由香里ちゃん、「恋」も「愛」も自分が好きなものを表すときに使う言葉なの
だからどっちの方が好きの気持ちが大きいとか、小さいとか、そんな問題じゃないんだよ
所詮字は字。自分のその時の気分と雰囲気、好き嫌いで適当に使えばいいじゃない

両方あわせて「恋愛」してるんだから、言葉で悩むぐらいなら心を磨きな》


実は…

西田君が来たとき、私自身パニックになっていて
彼方に酷い事言ってしまったと思って千秋さんに相談したんだ