「そういえば、さっき…」
エンガワを箸で掴みながら、顔だけ横に居る耀太の方へ向けた。
「……ん?」
ビールが並々に入ったグラスを傾けてる耀太は、あたしの次の言葉を促すように、視線だけこちらに向けている。
2人の間には、あたしの努力のかいあってか、いつもと変わらぬ空気が流れていた。
「なんで瑞穂が歌手志望だって知ってたの?」
ホントは匂いの疑問もぶつけてみたいけど、あたしだってバカじゃない。
気まずい雰囲気をぶり返すような真似はしたくない。
もぐもぐ口を動かすあたしから一度視線を外すと、「あぁ」と言いながらグラスを置いた耀太は、再びこちらを向いた。
その顔には、若干意地悪な笑みを含んでいるような……
「西村先生からの引継用資料に、クラス全員のいろ〜んなことが載ってたから。
もちろん、楓のもな」
「ゲホッ ゲホッ……
な、なんて書いてあったの!?」
慌てるあまり、喉につまらせつつ尋ねたあたしを見て、さらに口角を上げて笑う耀太の顔。
まるで童話に出てくる獲物を見つけた時の悪い狼みたいだ。
「知りたい?」
ゾクッ−−
あたしの背筋を、なにか冷たいものがつたった気がした。
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