その日あたしは結局図書館には寄らず、まっすぐ家に帰った。





案の定、話好きの奥様方に捕まりそうになったけれど、勉強を理由に上手くその場をスルーして。





部屋に入った途端、さっきのヒロキの言葉を思い起こして、あたしの口から自然にため息がこぼれ落ちていった。







あのさ…と、どこか不安げな、それでいて期待したような表情をしてるヒロキを、あたしは頼りになる兄のような気持ちで眺めていた。





『……ん?』



『今度から俺が楓を迎えに行くよ』



『………んん?』






最初、何を言っているのかまったくわからなくて、掛け時計に視線を走らせるなり立ち上がったヒロキを、あたしはさらに首をかしげて見上げた。





『楓は推薦だろ?
受験まであと1ヶ月しかないし、その間は雨に関係なく俺が予備校から家まで送るから』



『えっ?なに言ってんの?』





やっと意味を理解して、呆気に取られたあたしは、今度は声を出して笑った。






真顔で冗談言うなんて、ヒロキらしくないんですけど………





そんな気持ちで。





それなのにヒロキは、その表情をさらに固くして言ったんだ。






『冗談だとか思うなよ。
明日は予備校だろ?終わる時間は昨日ぐらいだよな?
行きは送れねぇけど、帰りは俺に任せとけ。
ごめん、もうバイトの時間だし、帰るな。
じゃあ、明日な』







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