「しかもね、どうやら石橋君狙いだったみたいなの……」
チ〜〜〜ン(撃沈音)
あたしが“ああ、やっぱりか”という顔をすると、千夏さんは慌てたように言葉を繋げた。
「でもねっ、石橋君には全くその気はなさそうだったって。
ケータイの番号もアドレスも、上手い具合にかわして教えなかったって…」
そんな珍しく早口な千夏さんの言葉を、あたしは途中で遮る。
「いいんですよ、もう……
耀太だって男だし、カッコイイし、モテモテだし……
覚悟はできてるんです。
ただ……」
「……ただ?」
「できたら、あたしが生徒で居る間は、誰とも付き合って欲しくないなぁ……みたいな。
……なんて、ワガママですよね?
すみません、ヘンなこと言って……」
そういえば、前に千夏さんと耀太が噂になった時も、おんなじようなこと思ったよね……?
あの時は『幼馴染みに戻るまで』って願ったけど、今はそれは無理だよ。
もう、あたしの気持ちは戻れない所まできてるんだから……
「ハァ……」
そんなことを考えて、自然にため息を漏らしたあたしの両手を、いつの間にか千夏さんの華奢な指が覆っていて−−
「大丈夫よ。
石橋君は今は誰とも付き合わない。
あたしにはわかるの。
だから、楓ちゃんは安心して勉強に打ち込みなさい」
千夏さんの言葉に根拠があるとは思えなかったけれど、今のあたしには、それを信じて突き進むしか道は無いように思えた。
「ありがとうございます。
『もしかして』だけを考えてちゃ、前には進めないですよね?
今は余計なことは考えないようにします」
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