あの日、ドライブから帰ったあたしが、真っ先にしたこと。





それは………昔使ってたお菓子の本を引っ張り出したこと。





もちろん作るためではなく、若宮先生が知りたがってたチョコブラウニーのレシピを書き写すため。




きっと今頃は2人でラブラブラブ……なんだろうなって、ニヤニヤしながら書いた。




あたしの想像の中では、倉田さんはどうしても歯医者の先生になるんだけど……ね。




あたしはソレを鞄にそっとしまい、いつか保健室に行く用事があった時にでも“婚約祝い”として先生にあげようと決めた。




ずいぶん、安上がりで申し訳ないけど……
いち生徒としてするぐらいには、このくらいでいいんじゃないかと勝手に納得して。









でもソレを渡す日は、案外すぐにやってきた。




1学期の期末テストを目前に控えたある日、あたしは久しぶりに生理痛と闘っていた。





あたし、生理痛って、軽い月と重い月があるんだよね。
だから薬とか常備してないことが多くて、しかも友達全員に、残念そうに首を横に振られて。





「次現国だし、楓は意外に得意でしょ?
保健室行って休んでおいでよ……」




『意外』は余計だと思いつつ、瑞穂の助言にあたしは素直に頷いた。




そして鞄から例のブツをこっそり取り出し、若干よろめきながらも保健室へと向かった。





コンコン……





「どうぞ〜」



「失礼します……」





ガラッ−−−





気持ち薬品臭い部屋の中に、思わず顔をしかめつつ、あたしはゆっくりと足を踏み入れる。
同時に、勝手にライバル視してた相手との、初めてのタイマン、じゃないや、対談に少しばかり体を強張らせて。







まさかこの後、自分があんな決意をすることになるとはまったく思わずに………








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