しばらく空を見上げてゆっくり流れていく雲をぼんやり眺めていると、




「………若宮先生…」




と、いきなりこの穏やかな空気を瞬時にぶち壊す威力を持った名前が聞こえて、思わずビクッと体が震えた。
それを敏感に感じたのか、カンタは薄目を開けてあたしを見上げている。





大丈夫だよ………覚悟はできてる。
カンタにもあたしの気持ちがお見通しなのかな……?





そっと頭を撫でてやると、クゥと小さく鳴いて、カンタはまた目を閉じた。





「若宮先生が……どうしたの?」




震えそうになる声を必死に絞り出し、右手はカンタに触れたまま、あたしは耀太の顔を見つめる。





大丈夫、大丈夫……




と、何度も自分に言い聞かせながら。





なのに、耀太が次に放った言葉は、意外な内容だった。





「お前、2年前くらいに、会ったことあるの知ってたか……?」





「………なにそれ…、どういうこと?」





もしかして、2年前に2人は付き合ってたとか……?





ううん、見た記憶がない。
自慢じゃないけど、9人の女性の顔は全て覚えてるんだから。





じゃあ、それ以外ってこと……?
10人目の彼女……!?





なんだか頭が、クラクラした。






´