「……あのさぁ」





「ん?」






椅子を回転させて耀太を見上げると、立ったまま、耀太はさっきのプリントを覗いている。






今、あたし達が居るのは、なにを隠そうあたしの部屋。







そう、さっきのアレ、『家庭でも教師』ってのは、その字の如く………






「家庭教師っ!?!」





驚いて飛び上がったあたしに向かって、





「あら、やっとこのシャレに気づいたの?ホント、頭の回転遅い子ね〜」






と、ふふふと笑っってみせた母親。






うろたえるあたしと耀太の手を引いて、早速今日からお勉強よ〜♪と、半ば強引にここに監禁してくれたってわけ。








「こんなん、いいわけ?」





「なにが?」






「教師がカテキョなんかして」






「ああ、そのことか……」






プリントから顔を上げた耀太は、諦めたようにため息を吐いている。






だってさ、考えてもみてよ。
教師が、個人的にいち生徒だけに勉強教えるのって、いいわけ?
生徒側からしても、なんていうか、抜けがけ?みたいな感じじゃない?






「俺も考えてたんだけどさ、俺が化学以外を教える分には、いいんじゃねぇの?」





「そんなもん?」






「多分な……。
ご近所さんとして、受験生に苦手な勉強を教えてやるだけ。
それなら、別にズルにはなんないだろ?」





「そっか……、耀太が別にいいんなら、あたしはいいけどさ」






あたし的には予備校に行けって言われるより、はるかにこっちの方がいいに決まってるもんね。
高校受験の時も何度か教えてもらったことがあるけど、何かと融通利くし、ワガママ言えるし。
楽勝♪楽勝♪









と、この時までは、あたしは本気でそう思っていた………









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