微動だにしないあたしと耀太を交互に睨み、いや、見つめながら、最後に「いいわね?」と母親は付け足してまたくるりと体の向きを変えた。





あたしは、その口調がまるで任侠映画に出てくる『よござんすね?』って言ってる姉御みたいだ、なんて思いつつ、もうすでに料理を再開している母親の背中を眺めた。





鼻歌を歌いながらきゅうりを切っているその背中からは、もう微塵もさっきのオーラは感じられない。
もしかしてさっきのは、幻だったんじゃないかって思うぐらい。





「………ええっと…」





戸惑う声がして横を見ると、さっきまで口をあんぐり開けてた耀太が、さっぱり訳がわからないって顔をしている。








「耀太、今日からアンタのことはパパって呼ぶから」




「な、なんで!?」




「だってお母さんの愛人でしょ?
あたしにしたら、第2の父親?……みたいな」





「バカかお前!んな意味じゃねぇだろっ!」






もちろんあたしは冗談で言ったんだけど、耀太は本気で怒っている。






あたしだってさっきのが愛人宣言だとは思ってないし。
でも、なんのことだったのかは、さっぱり。







「じゃあ、どういう意味?」







「それはね……」






耀太に向ってあたしが小首をかしげてみせると、変わりに背中を向けていた母親が振り返った。
さっきまでの鬼のような形相から一転して、その顔には満面の笑顔が浮かんでて、なんだか逆にそれが怖い。






「………そ、それは…?」






「答えは簡単。
ようちゃんには、今日から楓の“家庭でも教師”をしてもらいます!
これぞまさしく“耀太の恩返し”って感じね♪」






家庭でも教師??





家庭、教師?





家庭………ま、まさか!?






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