「俺、大メシ食らいなんで、1円も払わないっつうのは……」





「あらぁ、だってちゃんとビール買ってきてくれるじゃない?
それで充分よ。逆に申し訳ないぐらいだわ」





「でも……」






どうやら、食費のことでもめてるらしい。





まあ、確かに、耀太のおかげでウチのエンゲル係数はかなり上がってるとは思うけど………





そんなことを耀太が気にしてるなんて、ちょっと意外だった。





社会人なら当たり前の感覚なのかもしれないけど、あたしは多分、甘えられるならとことんつけ込むタイプだし。


来年、フリーターになってる自分を想像して、間違いなく親からの援助なしでは生きていけてないと思うし。


しかも、親以外からの好意も、余すことなくいただいて………






「楓、そんなとこにへばりついてどうしたの?」





「へっ!?」





先にあたしに気づいた母親が、おかしな子って言いながら、ケラケラ笑ってる。





このオバサン、かなりの笑い上戸だから、一度笑いだすと止まらないんだよね。
仕方なくドアのすき間から抜け出すと、バツの悪そうな顔をした耀太と目が合った。






「なんだよ、今日は珍しく帰ってたのか?」






「一応ね、これでも受験生だから」





というのも、親友の瑞穂が親との戦いに備えて、しばらくカラオケ・寄り道、すべてを控えるって宣言したから、あたしも渋々、学校から直帰状態だったりする。





もっともな理由を言ったのに、耀太は胡散臭そうな表情を浮かべた。





「へぇ、受験生ねぇ…
お前さ、今日出した進路のプリント、真剣に考えて書いたか?」





ギクリッ―――




「も、もちろん……!」









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