ベンジャミンの窓辺で

「素敵なドレスですね」

「えっ」

「いつも思っていたんですが、綺麗なドレス着てますよね?ご自分のですよね」

「あ、はい。実はあたしの母が、お酒のお店とかで歌を歌ったりする仕事をよくしていて、だからほとんど母のものなんですよ」

「お母様は歌が上手なんだ、今度聞きたいな」

「あ、母は4年前に亡くなりまして…」

「え…」

「はは(笑)」

そのまま黙りこくってしまった彼。

「いや、気にしないでください。昔から体の弱い人だったんです」

「…ごめんなさい」

「全然(笑)」

手をひらひらさせてみる。

「俺まだ何にも知らないから、野崎さんのこといっぱい知りたいんだ」

「あたしを…」

「うん、ずっと気になってたから。野崎さんってピアノ弾いてる時、なんか、世界が違うっていうか…野崎さんの周りだけベールみたいなものが渦巻いてる気がするんですよね、見てて。それで、聞いていると不思議といい気持ちになれる。この人はすごい人なんだなって、ずっと思ってました」

「そうだったんだ…いや、なんであの夜あたしに話しかけたんだろうって思ってて」


そうやってあたしたちは車内でたくさんの話をした。