――ホテルGrand East

詳しいことはよく知らないけど、日本各地にある有名高級ホテル。

最近は日本だけにとどまらず、台湾、韓国、アメリカなどにもシェアを広げているマンモスホテル。


そして…

「あたし働いてます!そこで!」


そう。あたしは都内のそのホテルGrand Eastの最上階で、バイトしているのだ。


「存じています。ですから、声を掛けさして頂きました」

「は…はあ。そうなんですか」

「いつも心地よく聞かしてもらっています。あなたのピアノ」

「そんな!全然だめですよあんなの」


あたしのバイト内容はピアノ演奏。

レストランの片隅で演奏するのだ。


「そうですか。西園寺さんなんですか、あたし知りもせずに失礼な事言って…すみません」

「謝らないで下さい…野崎さんとは前々からお話を伺いたいと」


西園寺が話す言葉を遮って、運転手が着きましたと叫んだ。


「また話は今度にしましょう。暇な時がありましたら、先程の名刺に連絡下さい」

「え!ぁ、はい…」


外を覗くと、あたしたちの住むアパートの前に止まっていた。

柳田は、真衣を担いで階段を上がってくれ、そのまま礼儀正しく帰って行った。


(一体何だったんだ…)


ベッドに倒れ込んで、忙しかった一日を振り返る。

色々あったはずなのに、眠りに落ちるまで頭にうかぶのがあの男の顔ばかり。

気のせいだと言い聞かして、目を閉じた。