驚いて声の聞こえた方へと顔を向ける。
「えっ」
声が喉から出てきた。
今日驚いたの何回目かなぁ、と私はその場にそぐわない思考を巡らす。
私の視線の先には、壁に背を預けるようにして佇む男性がいた。
先程、店内で偶然会った"あの"男性である。
私が目を見開いて、動けずに立ち尽くしていると、男性が優美な動きでこちらに向かって来た。
えっ、ちょっと!
顔恐いんですけど、あの人。
私なにかした?
仕草は物凄く柔らかで、まさに優雅そのものなのに、表情はまるで般若だ。
初対面の人の顔にその言い種は無いだろうが、そう表現するしかない。
けれど元の顔が良いだけに、余計に美しさを際立たせている。
結局、何の反応も出来ずに気付いたら男性がすぐそこに立っていた。

