夏実と隆を病室に残して、菜束と菜緒子は屋上へ出向いた。

暑くて、まだ明るくて。

夕方とも思えないような天気の中、菜束は黙って風を感じた。

「…お母さん」

「?ん」

「私ね、お姉ちゃんが助けを求めてるの、知ってたんだ。でも、無視しちゃったの」

「…どうして?」

口調が堅い。
菜束は怖くなる。

「お姉ちゃんのこと、嫌い…だから」

菜緒子がこちらへ足早に近付いてくる。
菜束は叱られると目を瞑った。

でも。

次の瞬間、菜束は菜緒子の腕の中に居た。

「そうだったの…そうだったか──…ごめんね、嫌な思いしたね」

「…ごめんなさい」

「でもね、嬉しい。」

「?」





「菜束がこうやってお母さんに本当の気持ち話してくれたでしょう。嬉しい」

「…、」

菜束は悲しくも無いのに涙をこぼした。

「もっと素直になっていいんだよ、菜束…」

「──ふ、えっ……」

「我慢しちゃったね…ねぇ、菜束」

菜束は声を上げて泣いた。





泣いて。泣いて、泣いた。




母の腕の中で。