夏実は本気で、一生逃げ暮らそうと考えていた。
愛があれば、なんて。
いつ裏切られるか判らないそんな確信に従って。
死のうと言われた。
嫌だと言った。
殴られた。
犯された。
蹴られた。
ビデオを売ると言われた。
殺すと言われた。
──────怖い。
夏実は、菜束を売ろうとした。
それで自分が助かるなら、いいと思った。
本当の妹ではないのだし。
嫌いな人間だから。
小玲の人間は皆嫌いだった。
だからいいと思った。
でも、菜束は夏実を返せと叫ぶ。
─────え?
夏実は驚きを隠せなかった。
菜束を売ろうだなんて考えて、
如何に自分が嫌な人間か。
愚かな人間か。


