なつかしい匂いがした。
鼻につんとくる銀杏の匂いだ。
少しだけ咳がでる。
ああ。そういえば僕はこの匂いが嫌いだった。

小学生の頃、通学路にある神社に銀杏がたくさん落ちていた。
そのひとつを踏んでしまった僕は、強烈な匂いに驚いた。あまりの匂いの強さで涙がでたほどだった。

あんなに嫌いだったこの匂いが、今ではなつかしい。
あのときとは違う。僕はもう高校生だ。

新しいことを覚えていくうちに、いつの間にか忘れてしまうんだろうな。
大好きだったことでも、大嫌いだったことでも。