広い部屋の中央に、
存在感のある光沢のほどこされた重厚感のある机。
窓から差し込む光を反射し、
すわり心地がよさそうながらも、
その人物の地位を示す黒い皮の椅子。

椅子は背を向けており、
部屋に入ってきた男は、緊張した面持ちで口を開いた。


「総理…本当にやるのですか?」


息遣いすら反響しそうな静けさが包む。
帰りたい、心底男はそう思った。
だが、自分の可愛い愛娘が巻き込まれようとされている事態。
愛する家族を思うと、足を動かす勇気は無い。


「やるって何をですか、田中外務大臣。」


凛とした声が響く。
その声には迷いは一切無い。
さすが、男の頂点…いや国の頂点に君臨しただけはある。
その声は、威厳に満ちており、またとても冷たい。
この人にはきっと迷いなんて言葉は存在しない。
迷ってはいけない。


この人の一言で国の命運が分かれるのだから。


じっとり汗をかいて手を握り締める。
きっと自分の額には、汗が浮かんでいることだろう。
無論、冷や汗だ。


「日本男児改善計画の最終調査です。」


あぁ・・と、今思い出したかのように声を漏らす。
演技だ・・絶対この人は最初から分かっていた。
その実験の舞台としてあげられているのが、


自分の娘の通う区立中学なのだから。


最終検査だ。
少子化対策のため綿密に立てられたこの計画。
そのために人体実験じみたことを裏でやってきた。

外務大臣として就任し、
資料に目に通したときは度肝を抜かれた。
人権を完璧に無視した計画。
完璧な男児を育て上げるために行われた人工授精。


命を弄ぶような実験が行われていた。