=凪=

『結局、チョコはまだリュックの中だし……』



スピードが上がる度に、先輩の背中の温かさを感じながら、心は迷っていた。



気が付くと、アパートの前にいた。



「今日は引っ張り回して、悪かったな。楽しかったよ…」



鼻の頭を掻きながら、そっぽを向く横顔は、あの頃のままだ。



「あのぉ……」



私は、恐る恐るリュックから、小さな包みを出し、借りていたコートと一緒に差し出した。



「今日は、本当にありがとうございました」


「おぅ」



先輩は、グローブを外し、手を出した。