=凪=

急に、先輩の顔が真剣になった。



「名取、お前は昔のまま、変わらずにいてくれ……」



不意な、しかも予想もしていなかった台詞に、ギュッと握りしめた拳は緩み、先輩をみつめた。



「帰るぞ……」



ヘルメットを渡され、帰り支度をしてバイクにまたがった。



ブォン!!



ガソリンの臭いと共に、バイクにエンジンがかかった。



そして、エンジンが温まった頃、静かに走り出した。



さっきまで、身体いっぱいにあった潮の香りが、少しづつ遠ざかる。



でも、思い出は強く心に刻まれていた。