皮膚から伝わる冷えた温度と、それに相反して気持ち悪いくらいに温かな一筋の滴。

目の前にはサファイアのような宝石を持った一人の女。

そして女の手に握られた物は、月光を受けて白く輝いていた。


「貴様、どこの刺客だ」


頭上から降ってくるのは静かな問いと冷笑。

ナオトは自身の首筋に当てられている刃を一瞥し、同じく静かに答えた。


「…俺があんたの質問に答える義務は無いけど?」

「貴様死にたいのか」


即座に返ってきた言葉は、相手が普通の人間なら余裕で怯ませる程の威力を持っていたが、ナオトは全く怖じ気づいた様子も見せずに再び切り返した。


「あんたの質問に答える義務も無ければ、ここで死ぬ必要性も無いんじゃない?」


ただ当たり前の事を述べたまで、といった顔で飄々と言葉を放つナオトに、女は一瞬、眉根を寄せたが
「良かろう」
と呟きナオトの首筋から剣をどけた。


平静を装っていても、自らの命の危機とあって、多少動揺していたナオトは下ろされた剣の刃先が纏っている赤に目を剥く。

痛みさえ感じなかったが反射的に首を押さえた手には、はっきりと赤い液体が付いていた。