何も出来ずにただ、重い会議資料を手にしたまま動けナイ私。
彼が眼を伏せている為、その精悍な表情から何も感じ取れなくて。
ただただ、虚しい時間が過ぎていくだけ・・・
すると何処からともなく、コツコツと聞きなれた靴音が鳴り響いて来て。
「渡辺と斉藤さん、此処にいたのか…。
もうすぐ時間だ、早く会議室に…」
「あ、課長・・・」
それは私を一気に温めてくれる、大好きな稲葉課長の声だった。
ピンと張り詰められた状況が、少しだけ和らいだと思ったのに…。
「…稲葉、どうすれば良い?」
渡辺さんと呼ばれた彼が、ポツリと力なく課長に問い掛けた。
「・・・何が?」
「忘れらないヤツに再会したら…、オマエはどうする?」
眉根を寄せたものの涼しげな表情で問い返す課長に、ようやく顔を上げた彼。