「ねえっ。」


 後ろからぼそっと聞こえるあの子の声。

 あたしの肩をポンと叩くあの子の手。
 
 
 
 「何??」


 今は数学の授業中。

 うるさい先生に気づかれないように顔だけ後ろに向ける。

 

 「園田君とさ飯島君て仲良いんだねっ。」


 
 きゃっきゃと笑いながら口を手で覆う。

 あたしはそんな美夜に呆れながら小さな声で呟いた。


 
 「あんたの考えとは違って園田と飯島はホモじゃないよ。」



 言った途端、

 美夜がにやついた顔を更ににやつかせ、顔を真っ赤に染めた。



 「そういうのが怪しいんだって!だってよく考えたらあんなにスキンシップが多い男子なんて滅多に居ないじゃない?裏で絶対に何かしてるよお。」


 
 いや、何もしていないでしょ。

 本当は口に出して言いたいが、言うと美夜はまた説明口調が激しくなり話が長くなるのでそこは我慢した。


 
 「んもう!柚宇ったら照れちゃってえ!後で同姓愛コミ貸してあげるからさっ。」



 机の下からちらりと漫画を出す。

 うわっ来たよそれ…。

 しかも何?「愛の体育館」って。

  

 「篠田!前向きなさい!」



 等々、先生にばれてしまった。

 クラスの皆は目線をあたしと美夜に向ける。


  
 「すいません…。」



 ぺこっと礼をして言うと授業は再び再開した。


 
 「くすっ。」


 
 美夜がにやにやして笑う所が後ろから聞こえて来る。

 
 
 このような毎日に飽きない日々。

 ていうか美夜のもとから解放されたい日々。

 全ては、

 あの日から始まったんだ ―――