あまり眠れないうちに、朝がやって来た。
どこでも眠れることが、ファラーシャの特技の一つだったが、残念ながら今日は発揮できなかった。
王と、謁見する日。
儀式的なものだろうと予想している。
だが、あの男と再び顔を合わせるのは、気が重かった。
「多分、私のことなんか忘れているわよね!」
話し相手がいないので、自分で自分を励ましてみる。
が、虚しくなるだけだった。
「…例え向こうが覚えてなくても、謝らなきゃ」
やはり、人として失礼な態度は謝るべきだろう。
そう心に決め、ファラーシャは準備に取り掛かった。
同時に、誰かが戸をノックする。
「何かしら、開いているわ」
「失礼致します」
入ってきたのは、三人の女だった。
朝、ファラーシャの食事を運んできた者よりも、身なりが良い。
「謁見の準備をしに参りました」
三人とも揃って表情が乏しく、何を考えているのか良く分からなかった。
「ええと、準備なら自分で出来るのだけれど」
「いえ、規律ですので」
突き放すような返事をすると、女の一人がファラーシャの衣装を脱がしはじめる。
「そ、それぐらい自分で出来ますっ」
国にいたころだって、侍女が手伝うのは髪を結うことぐらいだった。
「我慢して下さいませ」
「我慢と言われても…!」
衣装を抑えてうずくまるファラーシャを、女が二人掛かりで立たせると、遠慮のない手つきで衣装を這いだ。
そして、さして興味のない様子で持ってきた衣装を手早く着せていく。
衣装が終わると、今度は座らされ、ファラーシャの意志など無視するかのように髪を結いはじめた。
ファラーシャは強く抵抗出来ず、されるがままである。
まるで物のような扱われ方だ。
試しに話し掛けても、返ってくるのは、素っ気ない返事だけである。
三人は淡々と作業をこなしていった。