「な、なに」
「この国で不敬罪は打ち首だ。せいぜいその首が城下で晒されぬよう気をつけるがいい」
イードがファラーシャから手を離す。
眼差しは変わらず剣光だ。
ファラーシャは唾を飲む。
警告、だった。
今の話の中で、ファラーシャは深入りしてはいけない何かの核心をついたのだ。
それは、なんなのだろうか。
考えなければいけない。
ファラーシャは急いで今までの話を思い出した。
侵略と暗殺の話をしていたはずだ。
そして、良い意味でも悪い意味でも、そんなことが出来るようには見えないという話。
それを不敬だとして不快を現わにする若き王。
噂の通りだったら、もっと余裕のある態度でも構わないはずだ。
ファラーシャは所詮小国の姫君。
何を喚こうが、取るに足らない存在である。
笑って首を切ればいい。
けれども、全てが嘘にしては、侵略と暗殺に心を痛めている様子がない。
と、いうことは。
「噂の全てが本当なわけではないのね。だけど、全てが嘘なわけでもない…」
知らず知らずのうちに独り言が口から漏れていく。
「でも、私にはどこが嘘なのか分からないわ。情報が少な過ぎる」
イードの顔を見返した。
青みがかった黒の眼差しがファラーシャへ注がれている。
だが、その眼差しは不意に逸らされた。
「なるほど。馬鹿正直だが、馬鹿ではないということか。
安易に答えを出さない程度の頭はあるらしい」
褒められているのに、褒められている気がまったくしないのは、ファラーシャの気のせいではないだろう。
値踏みをするようにイードはファラーシャを上から下へ見回した。
「ファラーシャとか言ったな」
ちゃんと名前は聞いていたらしい。
ファラーシャは内心驚きながらも、小さく頷いた。
「これからの生活を楽しみにしておけよ」
「なに…急に…」
「さて」
勝手な言葉を告げて、イードはごまかすように笑う。
素直に喜べないような、そんな印象の笑みだった。



