宴のひらかれる、その数日前。

ファラーシャは部屋の片隅に立っていた。

城の端にある静かなこの部屋は、イードの自室らしい。

あまり派手ではない、というよりむしろ殺風景だ。

一つ一つの調度品は豪華なのに、あまり愛着しているように感じない。


ファラーシャは、部屋の主に視線を移した。

イードはサフと共に宴を仕切るヤースィム卿と話をしている。

ヤースィム卿は、小柄な顎の尖った男だ。

常にイードの顔色を伺うかのように上目である。

落ち着きなく両手を揉みながら、話を進めていた。


主に話を詰めているのはサフの方で、イード椅子にもたれ掛かったまま、二人の話を聞いている。


ヤースィム卿は、贔屓目に見ても頼りがいのある人物には見えなかった。

だが、どんな卑屈な様子を見せても、イードやサフが不快さを現にすることはない。

不思議なことだ。

イードならとうに馬鹿にしてそうだ。

…それは、ファラーシャの偏見かもしれないけれど。


「で、では、この方向でいかがでしょうか」


ヤースィム卿が、話を切る。サフがイードへ意見を求めるように首を廻らせた。


「任せた。私には宴のことなどわかぬからな」

「ですがっ、イード様のご意見も何かありましたら…」

「私の望みはこの宴が成功すること、ただそれだけだ。それ以外は一任する」


イードはきっぱりと言い切ると、興味がないといいたげに、グラスの水を飲み干した。


「か、かしこまりました


…それにしても。それほどに、イード様がご執心の姫君とは…。どのような方なのですかな」


「それはそれは美しい姫君だ。手元に置いておきたくなるぐらいのな。

水を」


空になったグラスをイードは揺らす。

最後の言葉はファラーシャに向けられたものだ。