そういえば、とファラーシャは口を開く。
「あなたとイードって、どんな関係なの?」
イツルの話を聞くと、二人は親しい関係のように思えた。
実はイードの本命はイツルだった、なんてことも有り得そうだ。
ファラーシャがそのまま口にすると、イツルが珍しく慌てて首を振った。
「ち、違います。けして、そういった関係では…それに私には…」
「私には?」
イツルがはっと我に返った。
何やら重大なことを口走りそうになったようである。
「…なんでもございません」
口を割るまで後少しのところだったのに、イツルはそれ以上答えるつもりはないようだ。
残念がるファラーシャに、イツルが苦笑いを浮かべる。
「イード様は、私の恩人なんです」
「…まさか恩を盾に取っていいように使われているんじゃ?」
イードならやりかねない。
「い、いえ。ちゃんと私の意志ですので」
「…そう。ならいいのだけれど…」
もしそうだったら、またイードの株が下がるところだった。
「なんといいましょうか…、シュカ族は帰る国を持ちません。自由である代償に、どの国にも属せないのです。
ですが、イード様は私に帰る場所を与えて下さったのです」
「帰る場所?」
「ええ。ですから私は、シュカ族出身でありながら、この国の民でもあります」
「それって…大丈夫なことなの?」
シュカ族の者が、一国に属すなんてことは初めて聞いた。
「…ですからイード様には大恩がありまして…」
イツルの言葉が濁る。
つまり、本来はしてはいけないことなのだ。
それは確かに大恩かもしれない。
「普段の私は別の名を貰い、館の奥で病に伏せていることになっているんです」
イツルがいたずらっぽく笑った。



