降りしきる雨がボクらの形を隠してくれていた。

今すぐ、このまま……逃げる訳にはいかない。


ボクもミクもお互いに抱えているものが荷物以外に沢山あった。


大人として、人として、それらを清算してから…行こう。


それはお互いの提案であり、納得の意見だった。


一週間後、その日までにすべての準備をしておく事、連絡はとり続ける事を約束して、ミクは車を降りた。



ボクはそのまま、車を走らせた。


音楽の音量を響く程に上げて…、いつもの海岸についた。





何を考えている訳ではない。ただ、もう二度と見る事のないかも知れない海を見ていた。











「もしもし…、アキトです。ねぇさん、オレ、女と逃げる事にした。留守電聞いたら連絡ください。」


ねぇさんには報告しておこうと思ったが留守電だった。


あとは…、適当にメールしとけばいい。






ボクはしばらく海を眺めてから、今後の事を考えながら家路についた。








「ただいま。」


「パパっ!おかえり〜。」

ヒカルはいつもの笑顔で迎えてくれた。


こぼれそうになる涙を必死に笑顔で隠した。


「おかえり。ご飯、もう少しだから……。」


ヨウコの声がキッチンの方から聞こえた。最後の週末は楽しもう。

準備は月曜日からだ。


揺らぎそうな思いを妥協とミクへの想いで抑えつけた。



ミクは上手く話が出来るだろうか?


難しいなら、オレが頭を下げるから…とは、言ったが…。


先ずは自分か…。



外の雨音は部屋の中でも聞こえた。


冷たい秋雨がボクを最後の家族の週末へ溶け込ませないようにしているようだった。