降り出した雨は風を伴って窓ガラスを叩いていた。



よく聞こえなかった。しかも、どういう意味だ…。




沈黙の中をピアノバラードが流れていた。




迂闊に喋れなかった。



沈黙はミクが壊した。


「ゴメン、大丈夫。旦那も知らない事だし…。ワタシ……、おろすから…」


オイ!ボクは何を言わしているんだ…。でも…。

「ミク、ちょっと待ってよ。それは……、ボクだよね。それならちょっと待ってよ。」


ミクは俯いたまま、頷いた。


ミクが旦那としていなければ、ボクなのは間違いない。頷いたということはそういう事だ。


言葉が難しい。ここで上手い言葉があるなら教えて欲しい。


産んでよ。っと言えば、家族を捨てる事になる。ゴメン。っと言えばミクはどうなる?確実に終わる…。








ボクには選ぶ責任がある。ボクは優柔不断なのか?でも、確実に大きな別れ道なのは確かだ。



しかし、またも、沈黙をやぶったのはミクだった。


「ゴメン。ワタシ面倒くさい女だね。大丈夫、アキトには迷惑かけないから…、ちゃんとおろすから…、心配ないから…、だから…、お願い…、側にいて…。別れないで…。」


ミクはボクの左肩を掴んで泣きながらも、雨音に負けない、しっかりした声でボクに言った。








「ミク、別れないよ……。大丈夫だよ。大好きだから……。」


別れない。上手くやる方法なんて思いつかない。ただ、別れるなんて事はない。








方法は1つしかないのか…。





おろせば何もなく昨日と同じ生活が待っているのか?






ボクの気持ちは決まった。




もう、1つしか思いつかなかった。












「ミク、二人で逃げようか………。」