さっきまでの空虚な部屋さえもどこか優しく感じた。


「じゃあね。ちゃんと風邪、治すんだよ。」


「あぁ、ありがとう。」


「あと……、ちゃんとしといてね。」


「あぁ、わかった。」


「また、メールするね。」

「あぁ、ありがとね。チュッ。」




「じゃっ、バイバイ」


ミクの開けた扉の向こうは、ボクには少し眩しい日常的な日差しが降り注いでいた。


周りを気にしながらウチを出たミクに笑顔で手を振った。


「早く寝て…。」


ミクはそう言い残して扉を閉めた。







シーツを洗う洗濯機が冷たく、現実に戻すように回り続ける。


部屋にはファブリーズと後で念入りにタバコを吸っておこう。


シーツの言い訳は…寝汗と……1人でやったら飛び散ったとでも言うか…。



少し浮かれ気味に家中を消臭して、軽くタバコの匂いをつけてまわった。

新しいシーツをセットして布団に入ったとき…、ある事に気付いた。



「オレ、元気じゃん」






一寝むりして、起きると、ヨウコとヒカルは帰っており、晩御飯の準備をしていた。



オレはすっかり治ったようだった。


その後、シーツの件もシモネタと苦笑いで乗り切り、普通の家族の時間を過ごした。


一つ、気に入らないのは、ヨーグルトがプリンだった事だが、ヒカルとヨウコが笑顔だったから良しとした。










愛する人を手にして、普通で幸せな家庭もある。

それは周りから見れば屈折した幸せなのかもしれない。


それでもボクには大事なものには違いない。


これから、ずっと続く事を月にそして神に祈るほどに……。













ここが、決定的な別れ道だった事も知らずに………。