家から外出までの所要時間はたったの30分。母さんとの会話なんて5分もあっただろうか。
早く会話を切り上げたかったのは、“父さん”の名前が出たから。
父さんは嫌いなわけじゃない。ただちょっと苦手。
彼は、食品関係のバイヤーをやっていて、海外の買い付けを主にやってると母さんから聞いた。
だから、海外に行ってる間は父さんに会えない。
それがいつものこと。
でも、この季節になると父さんは家にいることが多い。
仕事の事情なんだか知らないけど、毎日毎日家に帰ってくる父親。
それが当たり前の家庭なのに、俺は自分の父親が、顔見知りのおじさん‥としか思えない。
そんな風に感じてしまう俺は、どんだけ心が歪んでいるんだろうか。
家の扉を開けると、目の前に広がるのは熱をおびたコンクリートジャングル。
太陽の日差しを全力で反射する、熱くて冷たい灰色の地面。
俺はその灰色の地面に、自分の一歩、また一歩を踏み出し、自転車に乗った。
自転車の椅子は真っ黒になるまで焼かれた肉のように熱そうに見えたけど、ズボンのうえからだとそうでもなかった。
