「なぜ…。」 いつき殿は目を丸くして驚いていた。 「昼間、目が合ったでしょう。 いつき殿ならどういうことか確かめに参られると思い…。」 「悠吾郎様ったら…。」 いつき殿は小さく微笑んだ。 しかし、安心したのはつかの間、 「しかしながら、悠吾郎様。 ここは女の園、大奥。 見つからぬ内に、早うお行きくださいまし。」 と、冷たく言われた。 「そう…、ですね。 それでは。 ただ、いつき殿。 私がゴサイにならねばならなかった理由をお聞き届け下さい。」 ここで引く訳には行かなかった。