「いらっしゃい…霞」 父の優しい声が耳に痛い。 ─…カスミ─あたしは、消え入りそうなこの名前がずっと好きになれないでいた。 名前を呼ばれるたびに、あたしは、自分が消えてなくなるんじゃないかと錯覚に陥ったから─ だから、あたしは、名前を捨てた。 今の、あたしは、ユキだ─ できることなら、父や、母にもそう、呼んでほしい。 だけどそれは、叶わない願いだ。 *