しばらく、俺たちは黙って2人で歩いた。赤信号の交差点で待っている間も、静まりかえった商店街を歩く間も、俺たちはお互いに一言も発することなく黙々と歩いた。




しかし、雑木林にさしかかった頃、前を歩いていたヤエが急に止まり、同時に手が自由になった。


手をつないでいたせいで汗ばんでしまったその手が、風にさらされてひんやりと心地よい。


頭の片隅でそんなことを考えていた俺は、ヤエの一言で急激に現実に引き戻される。



「ごめんね、遥」



俺は最初何を言われたか分からずにいた。しかし、内容を理解した次の瞬間、俺は眉間に皺を寄せていた。



「何それ。さっきのイタ電のならもうおせーぞ」




「ちげーよ」



ヤエは苛ついたように振り返ると、すぐに顔を伏せた。






「…人酔い、まだ治ってなかったんだね。」





俺はなるほど、と理解した。
ヤエにしては可愛げがある。




「あー、いや今日のは久々。最近バイトばっかで疲れてたから、多分どっと来ちゃったんだろ」




そう言うと、ヤエはバツが悪そうにうつむいた。