携帯をギュッと握り締めて睨めば、肩をすくめる男。

「そんなに信用ないように見えるかなー……」

悲しげに聞こえるソレも


私を油断させるための計算ではないかと思ってしまう私は、やっぱり自意識過剰なのだろうか。





「…ここです」



諦めてとぼとぼと家路を歩き、

とうとう来てしまったアパート。

3階建てのワンルーム。

階段の前で振り返りそう言えば


「あ、ここねぇ」と外観を見上げる。




「送り届けてありがとうございました。満足ですか」



「なんか、最後の一言がちょっと気に食わないな」




そんなこと知らない。


私はここまであなたが着いてきたことが気に食わない。




「まぁ……すみませんでした。俺の不注意でケガさせてしまって」





苦笑しながら私を見下ろすその顔は、案外まじめで。


「そうですね」


半分は私も悪いのだけれど。でも口から出てしまうのはやっぱり悪態の言葉。

軽く頭を下げて

背を向けた男。

……あ。



一瞬。間が抜けてしまった。意外。本当に帰るんだ。いや、帰ってもらわないと困るんだけど。



さっきまでの強引さが嘘のようにあっさりと背を向けた男にこっちは少しびっくりしてしまって。





本当に送り届けるだけが目的だったのか、と。


スタスタと私に合わせることがなくなった歩調は早く、遠ざかって行く。


その後ろ姿を見送りながら、本当は良い人だったの?と思ってしまう。