「違っ、」



「素直になりなよ、お願いします運転手さん」




「はーい」


待ってました、とばかりに動き出す車。


あぁ、もう……今日は最悪だ。

着々と目的地へと近づいているタクシーの窓から外を見て、ケータイを取り出そうと彼の方を見る。




相変わらずくたーっと体を倒している彼の視線は、窓の外。ふぅ、と息を吐き出して手に取ったケータイで開くのは浩治の番号。




この男の前で電話するのは気がひける。けど、これ以上浩治を待たせるのはいけない。



プルルル...プルルル..


゛―――麻夕?どうした?゛



呼出し音が切れたと思ったのと同時、聞こえてくる声。


さっき話したばかりなのにまた電話をかけてきた私を不思議に思ったのだろう。


第一声が心配そうだった。

私はその声を聞きながら、チラッと隣に座る男を見る。



窓枠に肘を付いて、窓の外をボーッと見てる。電話から洩れる声がなるべく男に聞こえないように反対側の窓へ体を傾ける。



「……ごめんなさい、今日、行けなくなりました……」



゛何かあったの?゛


―――…言うべきだろうか。ケガしたって。でも、心配かけたくないし、何より……ドジだって思われたくない。


本当はこのまま待ち合わせ場所に行くはずだったんだけど、

この男は家まで送ることを曲げたりしない。はず。

……電話の向こうで、麻夕?と名前を呼ばれる。

嘘は、吐けない。





「……駅で、足、ケガしちゃって」