「っぶね・・っ!!」

地面に着地した武人は、しかし体制を整える暇もなく、横からの衝撃で吹っ飛ばされた。視界がきれいになると、その場にいたのは秀樹と、小柄な女の子だけになっていた

「おにーちゃん♪また遊ぼーよ!」

「性懲りのない餓鬼だな。そんなに殺されたいか」

「違うよ~、昨日も言ったじゃない」

女の子が右腕を振ると、色は黒く、頑丈で、鱗が光る、爬虫類の物のように変形した

「私は、おにーちゃんを殺したいの♪」

「・・言ってろ、鬼憑きが」

心底楽しそうな女の子の笑い声とライフルの安全装置が外れる金属音が重なった。

それが、合図だった





「って~・・・・なんだ?今の」

いきなり予想外の方向からの衝撃に耐えられず、武人はそのまま横にあった瓦礫の山に突っ込む形になってしまった。どうにかして受け身はとったものの、全身に鈍い痛みが走る

「あの体勢からで動ける程度のダメージにしかならないとは、予想外でしたね」

静かに近寄ってくる青年に、武人の背中を嫌な汗が一筋流れた

「昨日の奴みてぇにはいかねぇぞ?」

「そのようです」

青年はポケットに手を入れると、細い万年筆を取り出して武人に向けた

「なら、僕も本気で行くとしましょうか」

青年の顔から笑顔は消えない。そのまま、青年は空中に万年筆を滑らせる。すると、ペン先から青白い光が出て、なぞる通りに空中に線が引かれていく

「能力、か」

「当たりです。いけ!」

空中に書かれたものが青白く光ったかと思うと、そこから何かが飛び出してきて武人に向って放たれた。とっさに飛びのいた武人の眼に映ったのは、先ほどの光と同じ色合いをした豹のような生き物

「僕は戦うのが苦手なんですよ」

一歩も動かないまま、青年は武人に話しかける。豹は武人をにらみながら、青年の足もとまで歩いて行った

「その点で僕の能力はひどく便利なんです。こうやって文字を書くだけで、」

同じように万年筆を滑らせると、少し違う形に落ち着いた。光が放たれて、出てきたのは鷹のような鳥のシルエット

「僕の代わりに戦ってくれるものが出てくるんですから」

青年は笑いつづけている。それは明らかに、どこかが正常でない笑い方で

「やっべぇ・・まだ死にたかないんだけどな」

武人のつぶやきが合図だったかのように、二匹は一斉に飛びかかった



青白い閃光が弾け、青年は思わず眼を覆った。すぐに光はおさまり、青年が目を開けると、自分が出したはずの生き物が見当たらない。視線の先に唯一見えたのは、まさに今攻撃を仕掛けたはずの武人だった

「あっぶねぇなぁ。でも、ま、こんくらいじゃ倒せねぇぜ?」

軽く手首を動かしながら軽く笑う武人に、青年は信じられないような顔を向けた

「そんな・・・・僕の能力が、一瞬で・・」

「残念だったな」

武人は一瞬で間合いを詰め、鳩尾に一発。体制を崩したところにもう一発即答部に撃ち込むと膝から崩れ落ち、青年は動かなくなった

「俺らじゃなけりゃ勝てたかもしれなかったけど。さて、と・・」

いつの間にか静かになっていた周りを見回すと、少し離れたところで立ち止まっている秀樹が見えた。その雰囲気に殺気が含まれてないことに安堵しつつ、武人は秀樹のところへ歩いていった



「よう、終わったか?」

「・・見ればわかるだろ、いちいちうるさい奴だな」

「挨拶みたいなもんだろうがよ。わっかんねぇ奴」

秀樹から少し離れた場所、積み重なったドラム缶の下から覗いている腕らしきものは気にせずに会話を続ける

「やることも終わったし、そろそろ帰るか?」

「そうだな、しかし・・」

言いよどんだ秀樹に、歩き出していた武人は足を止めた

「どうかしたか?」

「・・・・・・いや、なんでもない」

そう言ってさっさと歩き出した秀樹は、後ろで呆れたようにため息をつきながら付いてくる武人に目も向けないままだった