ところが、その夜のことです。
トントンという音で、サイは目を覚ましました。

「誰じゃ、こんな遅くに」
サイが勢い戸を開けると、足下に女のカッパが立っていました。

「カ、カッパ・・」
あまりに驚いたサイは絶句したまま、そのカッパを見つめました。
頭の中ではどんな言い訳をしようかと、そればかり・・。

ところが、そのカッパはサイを責めるためにやって来たのではありませんでした。

「これはサイさま。真夜中に申し訳ございません。あのぉ、父が送り舟をお頼みしておりましたが、その必要がなくなったものですから、そのぉ、断りを言いにまいりました」

唇のちょんととがった可愛らしい娘子です。
好都合なことに断りを入れにやってきたのでした。
サイはさも残念という風を装います。

「なんじゃ、そうじゃったんかい。お父さんも楽しみにしとらしたのに、そりゃあ残念なことじゃ。どうかしたんか」

破談にでもなったのかと、いぶかしげに眺めると、その娘子はみるみる目に涙をためていきます。