月夜の送り舟

 
河原ではカッパがさっきのまま転がっていました。

「死んでしもうたか」
ぴくりとも動かないカッパを見て、肩の辺りをつま先でつつきました。
すると、口元がわずかばかり動くのが見てとれます。

「サイさん・・」
サイは耳を疑いました。
いや、間違いありません。
確かに今、言葉をしゃべりました。

カッパが言葉をしゃべるなんて聞いたことがありません。
しかも、サイの名前を呼んだのです。

「だいじょうぶかぁ」

遅れてようやく目を開けたカッパは、サイの顔が映ったのでしょう、口元がゆるみ、笑ったような顔になりました。
しかし、目を開けておくのさえ辛そうです。

「おまえ、言葉がしゃべれるのか」

カッパは頷きました。

「ワシに何の用だ。ワシをつかまえようってのか」

カッパは首を横に振ります。
何かしゃべろうと口を動かします。
でも、その声はサイには届きませんでした。

そして、そいつは力なく目を閉じるのでした。