ガールズ・トーク

店には本を読んでいた
初老の男性だけになっていた。

彼は、読みかけの本に
栞を挟むと静かに
本を閉じた。

そして、レジの方に向かって
歩き出した。

手には本しか持っていない。

彼は、読書をしに
「ラバーズ」に来るのだ。

彼が手にいているのは
マルセル・プルートスの
「失われた時を求めて」
の最終巻。

ロマンスグレーの髪に
いつも白のセーターに
ジーンズ。

定年退職後は
この本を読破すると
決めていた。

そう以前、話をしてくれた。

彼は、店を出る時

「明日はきっと晴れますね」

と智子と里美に
微笑み出て行った。

智子の明日はきっと
晴れるだろう。

雫が太陽に照らされて
輝くように・・・。