「ごめん……そんな顔をさせたいわけじゃないの。
悪いのは私なんだよ。
私は、漂流者で、殺されるためだけの存在だから。
それしか意味のない存在だから、そんな風に私のために
悲しんだりしないで」


泣いて強張った頬で無理に笑顔を見せてみた。
まだ視界は涙でぼやけている。
時折かすかに吹く夜風が涙を冷やしていく。

露暴はそっと片腕から紗里の手を離すと物干し竿のところまで行き、
干されて間もない、まだ乾いていないタオルで
紗里の涙をぬぐった。
ほのかに洗剤の甘い香りがする。


「……意味ガナイナンテ、言ワナイデクダサイ。
僕ハ久遠サンニ作ラレタロボットデス。
モシ、久遠サンガココニ来ナカッタラ
僕ハ生マレテクル事ハアリマセンデシタ。」


露暴は優しく微笑んで続ける。


「僕ニトッテハ、漂流者ハトテモ意味ノアル、特別ナ存在ナンデスヨ」

「露暴……」

「ダカラ、紗里サンモ僕ニトッテ特別ナンデス。紗里サンガ悲シケレバ僕モ
悲シイデス。嬉シケレバ僕モ嬉シイデス。
ソレハ、当タリ前ノ事ナンデス」


「ありがとう……」


自然に言葉がこぼれた。

目の前の、子供が描いたようなロボットを愛おしく感じる。


たとえ世界が紗里を否定しても、この妙に人間くさいロボットは
自分を受け入れてくれる。
そう思えた。


まだ目尻に残る涙を拭うと、
紗里は夜空を見上げた。


雲間から見える星は、さっきよりも優しく瞬いているように見えた。


殺される。それ以外の意味を見つけたい。



星の下、密かに紗里は願った。