高層の神殿の最上階。
黄龍全土が見下ろせるその場所に胡弓は立っていた。
闇色の雲間にぽつりと青白い月が浮かぶ。
胡弓は見上げながら目を閉じた。
あの日も業火の中、月はただ白々耀き、自分の頭上にあったことを思い出す。
燃え盛る炎、人々の最後の悲鳴。
力尽きるように崩れていく家々。
その中でただ、どうしようもなく立ち尽くしていた。
深紅の光景の中、煙の隙間から見えた月だけは、まるで他人事だと言うように清らかに輝いていた。
月は胡弓が助けを求めて伸ばした手に気づくこともなく、ただただ、孤高にそこにあった。
覚えている。
諦めて、空へ伸ばした手を地に落としたことを。
焼け焦げた大地を強く、強く握りしめたことを。
「……笙(しょう)」
無意識のうちに零すように呟いた。
--あの炎を放ったのは
脳を直接刺されたような内側からの激しい痛みに思考はそこで途切れた。
吐き気を伴う鋭い痛みの波に耐えきれず、胡弓はその場に倒れこみうずくまる。
意識が持っていかれないよう、必死に抑えるように頭を強く両手で押さえつけた。
腕の隙間から笑みを浮かべる口許が覗く。
--懐古でさえ
「許されないのか……」
うずくまり、苦しむ胡弓を今もただ、月は冴え冴えとした光を湛えて見下ろしていた。
夜はまだ明けない。
「四章・了」
黄龍全土が見下ろせるその場所に胡弓は立っていた。
闇色の雲間にぽつりと青白い月が浮かぶ。
胡弓は見上げながら目を閉じた。
あの日も業火の中、月はただ白々耀き、自分の頭上にあったことを思い出す。
燃え盛る炎、人々の最後の悲鳴。
力尽きるように崩れていく家々。
その中でただ、どうしようもなく立ち尽くしていた。
深紅の光景の中、煙の隙間から見えた月だけは、まるで他人事だと言うように清らかに輝いていた。
月は胡弓が助けを求めて伸ばした手に気づくこともなく、ただただ、孤高にそこにあった。
覚えている。
諦めて、空へ伸ばした手を地に落としたことを。
焼け焦げた大地を強く、強く握りしめたことを。
「……笙(しょう)」
無意識のうちに零すように呟いた。
--あの炎を放ったのは
脳を直接刺されたような内側からの激しい痛みに思考はそこで途切れた。
吐き気を伴う鋭い痛みの波に耐えきれず、胡弓はその場に倒れこみうずくまる。
意識が持っていかれないよう、必死に抑えるように頭を強く両手で押さえつけた。
腕の隙間から笑みを浮かべる口許が覗く。
--懐古でさえ
「許されないのか……」
うずくまり、苦しむ胡弓を今もただ、月は冴え冴えとした光を湛えて見下ろしていた。
夜はまだ明けない。
「四章・了」