「久遠が四神護に襲われました。露暴も倒れてしまって……病院に連れていかないといけなくて、その……」


自分で自分の説明がもどかしかった。

もっと的確で、簡潔な言い方があるのに
上手く言えない。


苅安は何も言わない。
代わりに扉の縁に腕くみをしてもたれかかった。

今にも溜息が聞こえてきそうなそぶり。


煽られて紗里は余計に焦り、焦りは苛立ちへと変わった。


違う、そうじゃない−−!


これでは伝わらない。


「助ける」と自分に言ってくれた人。



助けたい。
助けないといけない。


怖いから何?


私が恐れている傷は、付いたって死んだりしない。

今の久遠の傷とは違う。


今、私が私を守ったら、誰も救われない。


「久遠を助けてください」


紗里は深く頭を下げた。


「私だけじゃ、ダメなんです。お願いします。」


意を決して放った言葉は、葛藤した感情よりも簡素だった。
けれど、それが心からの言葉。
本当の「お願い」だった。


「……漂流者が嫌われているのは知ってます。
久遠を助けて、苅安さんが何か言われるようなことがあれば私は、その人達に土下座してでも関わったことを謝ってまわります。
私はどれだけ、何を言われたって構わないです。だから−−」