紗里は長屋の一つの扉の前に立っていた。
褪せた緑色の扉。
昼間、久遠と共に訪れた家だ。
紗里はひっそりと深呼吸をして扉をノックした。
少しして扉の向こうから声が聞こえた。
「……誰だ」
しゃがれた低い声は、やはり紗里にとって緊張するものだった。
「……紗里です……あの、昼間に久遠と、一緒にいた……」
声が上擦る。
緊張で震える腕を押さえながら、紗里は必死に真正面を向いて相手の反応を待った。
本当は逃げ出したい。
扉の上に提げられた電灯がぼんやりと灯ると、ゆっくりと扉が軋みながら開いた。
電灯に照らされた苅安の険しい顔は、昼間よりも更に厳しさを増しているように見えた。
玄関に立つ苅安は何も言わない。
久遠は漂流者だが、それとは関係なく苅安とは「仕事」という繋がりがある。
だからこそ対等な立場でのやりとりが成立している。
しかし、紗里はそうではなく純粋な「漂流者」だ。
拒絶が前提の関係で、対話が成立しないことくらいは覚悟しておかなければならなかった。
紗里はその目線に泣きそうになるのを堪えながら話し出した。
何度経験しても、この目を見るのは身を切られるように痛くて辛い。
褪せた緑色の扉。
昼間、久遠と共に訪れた家だ。
紗里はひっそりと深呼吸をして扉をノックした。
少しして扉の向こうから声が聞こえた。
「……誰だ」
しゃがれた低い声は、やはり紗里にとって緊張するものだった。
「……紗里です……あの、昼間に久遠と、一緒にいた……」
声が上擦る。
緊張で震える腕を押さえながら、紗里は必死に真正面を向いて相手の反応を待った。
本当は逃げ出したい。
扉の上に提げられた電灯がぼんやりと灯ると、ゆっくりと扉が軋みながら開いた。
電灯に照らされた苅安の険しい顔は、昼間よりも更に厳しさを増しているように見えた。
玄関に立つ苅安は何も言わない。
久遠は漂流者だが、それとは関係なく苅安とは「仕事」という繋がりがある。
だからこそ対等な立場でのやりとりが成立している。
しかし、紗里はそうではなく純粋な「漂流者」だ。
拒絶が前提の関係で、対話が成立しないことくらいは覚悟しておかなければならなかった。
紗里はその目線に泣きそうになるのを堪えながら話し出した。
何度経験しても、この目を見るのは身を切られるように痛くて辛い。