かなりの距離を走ってきたのか男の赤茶色の髪は乱れ、全身大汗をかき、その汗が滲んで衣服のあちこちが濡れて変色していた。

男は息切れをしながらも話し出した。


「急いで病院に戻れ!……食われた奴が運ばれた。鴉一人じゃ対応しきれねえよ」


言い切らないうちに久遠は駆け出していた。

次いで露暴、紗里と後に続いたが、
雨に濡れた石畳。しかも朽ちてひび割れ不安定な足元。
華奢なパンプスで走るにはあまりにも不向きな道。

ひびに引っ掛かって転びかけた紗里を露暴が支えた。

いつもは久遠がとっていた手。

けれど今、久遠は振り返ることなく走る。


その背中の余裕のなさが、ただ事ではない何かが起こっていることを物語っている。


紗里も露暴も、久遠を引き止めることなく
病院への道を無言で走りだした。