「彪(あや)、あれは私の獲物だ。手を出すんじゃないよ……!」


刺すような目線で「彪」と名を呼ばれ、白虎護はわざとらしく腕をさすって怖がる。


「……わかってまーす」


そんな彪の素振りに目もくれず、胡弓は背を向ける。
出口へと進む速度は、先程よりも速く、靴音も高く大きく響き渡った。


彪は胡弓の背中を見送って、ジャケットのポケットから懐中時計を取り出した。

真鍮で出来たそれの表面は豪奢な唐草紋が隅々まで彫り込まれていて、一目で高価なものだと想像がつく。


蓋を開くと黒色の文字盤に、同じく真鍮の漢数字が浮かび上がった。


彪は時刻を確認し、低く笑い声を上げた。


「召喚から24時間経過……いいね、狩りが楽しくなる」


足元の煙草は燻りながら燃えつづける。






「二章・了」