しばらく行くと、微かに靴音が重なる。


女が歩みを止めても靴音が一人分響き続ける。


それを認めると女は再び歩きだした。


徐々に靴音は互いに近くなり、間近に迫ったところで
鳴り止んだ。


薄暗い廊下を静寂が包み込む。


カツン、と一歩踏み出す音がした。

女に近づいてきた靴音の主が、窓からの薄明かりに浮かび上がる。


白虎護だった。


「珍しいね、あんたがここに来るなんて。胡弓。ひょっとして寂しくて会いに来ちゃった?」


胡弓、と呼ばれた女は鼻で笑った。
金色の輪状のピアスが揺れる。


「くだらない冗談はおよし。」

「いやいや、だって余程の事がないと他人の縄張りになんて近づかないだろ、アンタは」

「それがお前に会いに行くためだって言うのかい?随分と自信家だねぇ。白虎護って言うのは」


互いに失笑すると、一拍おいて胡弓が話しを切り出した。


「漂流者を捕らえた路地裏の人間が来てるらしいじゃないか」


「あぁ……あいつらのことか、胡弓の用事は」


その思い出したかのような白虎護の表情に何か感づいたのか、
胡弓は訝しむように白虎護を見据え、一回、臭いをかぐように鼻を白虎護へ近付けた。


「血の臭いがする。
お前、また殺したね」