鍛え上げられた肉体から繰り出されるその剛拳は、迷いなく白虎護へ向かった。


「安っぽいってそんなぁ……」


白虎護は片手でそれを平然と受け止めて押し返す。
細い腕のどこにそんな力があるのか、想像もつかない。


「俺には俺なりのこだわりがあるのになー。超ショックー」


男の拳を押し返しながら白虎護は、わざとらしく落ち込んだ素振りを見せておどける。

程なく完全に押し切ると、白虎護は男の懐に入り込む形となった。

白虎護も長身ではあるが、男もかなりの大きさがある。

白虎護は男の懐の位置から見上げて首を傾げて笑う。


「死んで償って貰うしかないよね?」



−−ああ。


男は心のうちで嘆息し、目を伏せる。

白虎護は目を見開き、心の底から楽しんでいるような笑顔を見せた。

錆び付いた刀を振り上げる。



「役立たず」



白虎護の言葉が先か、刃が男の喉元を裂いたのが先か。


男の死は一瞬だった。


最後の断末魔。
男は確かに歎いた。



−−この世界は、いつからこんなに苦しくなったんだ。