しかし、その名前を示すディスプレイには『公衆』という文字が浮かんでいた。

こんな通話手段を使う人間を探すと──

(木下か?)

あれから何度連絡しても携帯は繋がらなかった。もしや悠美たちが何かしたのかと、うすら寒い不安を消せないままだった。

「もしもし!」

ベッドに半身を起こして声を掛ける。

しかし、返事は無かった。

「もしもし……木下?」

しばらく押し黙ったままの受話スピーカーだったが、何度か問いかけたのち、やっと返事を返してきた。


最初に耳に入ったのは、かすれるような声の謝罪の言葉だった。



『ごめんね、琢己くんの彼女……』


(やっぱりそうか)

携帯はどうしたのだろうか?

募る不安を抑え、続く言葉をじっと聞いていた琢己は、そのあと言葉を失った。



『許せないの。だから……頼んだから』